創立10周年を振り返って

四条繁栄会商店街振興組合
樋爪保

KICSというITの典型のような組織体が、なぜ、古都である京都に生まれ、それが日本最大と言われるまでに大きく成長し、また絶えず最新鋭の設備を有するシステムにまで進化を遂げているのだろうか?

そして、なぜ、同じような組織体が、日本の他の地域や都市では育たないのか?
KICSのシステムを勉強するため、年間、京都に多数の団体がお越しになり、また時々、全国各地からお招きを受けてお伺いし、KICSのお話をさせて頂くとき、必ず質問されるのがこのことです。
KICSの創立当初から、KICSづくりに携わった者のひとりとして私なりにこの疑問への解答を、以下の五つの項目にまとめてみました。

1.歴史的伝統と数の重み

平安建都から1200年、そのほとんどの時代、京都は日本の首都でした。
その文化的な証として、京都には、御所をはじめ、総本山、家元、宗家、そして 老舗が数多く存在しています。
京都の老舗は、日本のすぐれた精神文化を具現化した商品を扱う処ですが、古来のものを伝承するだけではなく、絶えず時代時代の最高の素材を用い、工夫をし技術を磨き、または味を極めることで、それぞれの独創性を確立し、現在まで脈々とお店を継承されて来たのです。

この老舗の進取の精神は、KICSを運営する上で、何物にも代えがたい大切な財産であり、思うに、これは京都人が持つ共通の遺伝子なのかもしれません。実際、KICSには、各業種業態の京都の地域一番店と言われる店がすべて加盟 されておりますが、それらの多くが老舗です。
有名な老舗が加盟しているということは、京都では信用の高さを表し、KICS に1000を優に超える商店が加盟する要因にもなっており、そして1000店舗を超える団体であるという事実そのものが、KICS最大の強みとなっています。

2.盆地という地理的環境

地政学的に見る京都盆地は、平安京が造営されたことでも分かるように、三方をなだらかな山に囲まれ、中央を清らかな川が流れる、山紫水明の地です。
盆地で暮らすということは、決して閉鎖性を意味するのではなく、日々、山の緑を見て暮らすという憩い感があり、際限ない平野に散在するのではない、囲まれた中に抱かれてともに一緒に暮らしているという安心感があります。

KICS加盟の1300店全店も、京都盆地の内、お互い遠くとも車でせいぜい数十分までの距離にあるので、親近感を抱け、それぞれの所属する組合が異なっていても地域共同体的な意識のもとに、統一的な行動がとれるのだと思います。

3.観光都市の開放性

京都は国際観光都市であり、経済の多くを観光に依存しています。
日本全国や海外からの入洛客を歓迎するためには、全てのお客様を受け入れ、全 てのお客様に満足頂けるよう、おもてなしの体制を整えなければなりません。
つまり、これは外に対し開放的でなければならないということと同じ意味です。
KICSは、クレジットカード会社やデビットカードに加盟する金融機関との契約、また宅配の全国や海外配送についても、さらにECを含むインターネット事業についても、このおもてなしを第一義として、全体システムを構築しております。

ただ、自由貿易という開放に耐えられるためには、その国が強い独立国でなければ成り立たないのと同様、KICSも、この開放に耐えられるためには、競争力のある自立独立のシステムづくりをしなければなりません。
KICSが提携する全ての機関や企業は、皆が、我々のこの気概に共感を頂けるからこそ、KICSとの契約条件なども含め、一致して、協力体制を組んで頂けているのだと思っております。
この体制が、KICSの組織とシステムを強くする要因になっているのです。

4.地元金融機関と地元企業の協力

京都の金融機関を取り巻く環境の特徴は、地元金融機関が3行と少なく、しかも それぞれが大きく、力があるということです。
そのため、地元の中小企業を育成させようという思いには、特に熱いものがあると思います。
実際、KICSも、加盟店におけるクレジットカード売上の資金繰り改善のための当座貸越などについて、特段の配慮を頂き、物心両面の支援を受けています。
都市銀行では、なかなか対応が難しい内容であり、KICSの資金決済システムが特段に優れているといわれる大きな理由のひとつです。

また、京都には世界に名立たるベンチャー企業が多数あり、それぞれの企業が地元の発展に関心があり、地元支援への意識も非常に高いものがあります。
現にKICSも、クレジット会社・機器メーカー・通信事業会社・ソフト会社・ 運輸会社など、京都の地元企業からそれぞれに多大の理解と協力を得ています。
これもKICSが京都に在ることの強みであると思います。

5.京都市の支援

KICSは、共同センターシステム構築に際し、京都市から継続的に多額の補助金を頂戴しています。
この補助金はたいへん有効に使われており、補助金というよりも、公共投資という表現の方が正しいように思います。
この投資のお陰で、KICSは、初期費用の負担を大幅に軽減することができ 計画どおりの大規模で最新鋭のセンターシステムを構築することが出来たのです。

地方自治体が単独でこのようなIT助成をしているということは、全国的にも他に例がなく、先進的かつ開明的な施策だと言われています。
行政の強力な支援があるということは、社会的認知の証でもあり、上記の関係する機関や企業体が、安心してKICSとの協力体制を組める大きな根拠にもなって いるのです。

偶然と必然への感謝

いわゆるバブル経済崩壊の10年間とKICSが発足してからの10年間の時期は、ほぼ一致しています。
そのような厳しい経済環境の中にも係わらず、KICSが拡大と発展を続けるこ とが出来たことにつき、いま振り返りますと、よくぞまあ出来たものだとの感慨も ひとしおです。
先に述べた京都ならではの多くの好条件が重なり合ったという、たぐい稀な幸運 に恵まれたからこそ、ビジネスモデルとしても成り立ってきたのです。

加盟店メリットの追及は、我々のビジネスモデル構築の第一条件でありますがクレジットカード会社をはじめ関連の各法人にもメリットがなければ、つまり、双方にメリットがなければ、このモデルが続かなかったことは間違いありません。
上記5つの条件の内、何かひとつの条件が欠けていても、今のような発展は望め なかったのではないでしょうか。
これ程の幸運に恵まれているということには、ただの偶然ではない、何か必然の力の存在を感じざるを得ません。

まさに、広大な太陽系宇宙の中で、地球にだけ生命が育まれ、そして万物の霊長と言われる人間にまで進化を遂げた環境、自然の摂理に似ているように思います。
それ故に、我々は常に感謝の気持ちを抱き、地球の環境保全と同様、この与えられた貴重な環境を壊すことなく大切にし、KICSという組織と事業を継承していかなければならない責務を担っていると考えております。京都では、100年続かないと、老舗と呼んでもらえません。
老舗が数多く加盟するKICSですが、KICSも、KICSの組織自身が老舗と呼ばれる存在となるまで、世代を超えて、世代をつなげて、頑張る組織になってもらえれば、まことに幸いと思っております。

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